今、現在の状態を何とか打開したいと考えている少年、駿輔(シュンスケ)、17歳。

だが、この現状を変えるのは、かなりの困難を伴うだろう。

なんせ、今はベッドの上、加え、親友に押し倒されている状態。

そして、親友はもう、その気満々だろう。

「・・・アー・・・やめようよ?」
                     
などと間抜けな声を出してみても、親友である知己(トモキ)はやめるどころか、『何で?』とあからさまに不

快な表情。

「そっちが誘ったんじゃないか?それを?」

そうだっけ?

と、薄らと呆けてみても、それは変えようのない事実。



話はほんの数分前に遡る。






知己は、駿輔と、彼の部屋で休み前の酒盛りをしている。

高校生にも関わらず、酒が好きなふたりは、よくこうして駿輔の部屋で酒盛りをしている。

彼は片親で、父親が出張が多いので、なにかあると彼の部屋でこうして大人には知られてはいけない事

をしていた。

そうゆう意味では、ふたりは”悪友”の方が言葉は近いかもしれない。

そんなふたりが、親が休み前の出張でいないとゆうにの、なにもしない訳がないであろう。

無論、今回も酒盛りが始まった。

父親が放任なのか、片親で申し訳ないのか、酒を呑んでいる事には気付いているだろうが、あえて何も

言わなかった。

それを良い事に、こうして酒を酌み交わす。

今回は父親が以前に買ったまま放置されている焼酎がメインだ。


ある程度酔いが回った頃、知己が突然言い出した事が発端だろう。

「駿輔ってカノジョ、いたことある?」

グッと息を飲み込み、はぁ?と知己を見上げる。

「ンだよ、いきなり」

恥ずかしながら、駿輔は『カノジョいない歴』が年齢と同じとゆう、悲しい事実がある。

無論、モテない訳ではない。女友達もたくさんいるが、それとこれとは悲しきかな別問題で、”カノジョ”と

名の付くものが隣にきた事がないのだ。

「お前はどうなんだよ?」

質問に質問返しをお見舞いしたが、

「いるよ」

の、一言であえなく撃沈。

『あるよ』ではなく『いるよ』・・・現在進行形かよ、と、軽く舌打ちをし、手元にあった、焼酎を煽る。

「いるよって、こんなトコで油売ってていいのかよ?カノジョはほっとくのっかよ」

「ん〜?」

気のない返事をして、知己はちびちびと呑み続けている。

その姿を余裕と感じたか、駿輔はムっとして、更に酒を煽った。

「おいおい、今日はやたらとペース速いんじゃね?」

大丈夫かよ、と、言いつつ、この状態を楽しんでいる知己は、あからさまに酔いが回った駿輔をいじりに

かかる。

「動揺?もしかして、カノジョいた事ないか?」

カラカラと笑い、まさかな〜と、楽しげに呑み続けている。

「ンな訳・・・!」

あるか!と言ってしまいたかったが、そこで言葉を切ってしまった。

じっと駿輔を見詰める知己の瞳が、まるで心の中まで見透かすように、真っ直ぐに視線を向ける。

「じゃ、セックスもした事あるんだ?」

真っ直ぐに見詰められて、言葉が出て来ない。

知己の瞳は薄い茶色なのだ。その瞳が他人にどのような影響を与えるかを重々承知の上で、時折こうし

て視線だけで訴えるように見詰める。

駿輔も例外ではなく、この眼で見詰められるのは苦手なのだ。

そんな知己から、逃げるように視線を外し、思わぬ言葉が口を付く。

「・・・ンなの、試したら判る事だろ!」

しかし、その駿輔の言葉に驚く様子もなく、纏わりつくような視線を向けたまま、「じゃ・・・」と、ベッドへ

誘う。




そして、現在に至る。







知己は駿介の首筋にフっと唇を落とす。

「・・・ぅひぁぁっ!!」

息が触れただけで、上擦った声が上がる。

「お前、もう少し色っぽい声出ないのか?」

そんなの無理!と心で叫んでみても、相手に聞こえるはずもなく。ただ、出てくる言葉は・・・

「・・・ひっ!き・・・気持ち・・・わ・・・」

とゆう、色気とは無縁の鳴き声のだけだ。

ベロリと首を舐められ、徐々に耳まで上がっていく舌先が、まるで生き物のように、駿輔の弱い処を探して

蠢く。

知己の舌が首の周りを這いずり回ってるのを、必死に絶えていた。

気持ち悪いとおかしな感覚が背筋を這い上がってきて、この慣れない感覚に、戸惑いを感じていた。

『こ、これってもしかして・・・気持ちいいって事!?』

先程とは明らかに変わってきている自分の感覚を、何とか立て直そうともがいていると、体の中心をふい

にズボンの衣服の上から捕まれた。

「・・・アァッ!」

別の事に集中していたせいで、声を抑える事も出来ず、鼻にかかった奇声が上がってしまった。

その声は自分の声とはとても比べる事も出来ない程に、上擦った、予想も出来ない程に甘い声だった。

「お、以外に可愛い声だな」

くくくっと、満足げに鼻で笑って、駿輔の中心を指先だけで衣服の上から弄んだ。

「・・・ン・・・ち・・・ょ・・・」

1度、出てしまうと、抑える術を知らない駿輔は、吐息のような、男と相手は信じられないような甘い声が

口をつく。

布越しに感じる男の指先が、駿輔の善い処を責めてはいるのだが、この焦らされるように躍る指先が、駿

輔の思考に靄をかける。

「あ・・・ン・・・!」

自分自身では与える事の出来ない快楽に、確実に駿輔の中心は固くなっていき、燃えるような熱が集ま

りだしていく。

鼻から抜ける、子犬の鳴き声にも似た掠れ声に、それを与えた男は更に追い立てるように激しく快楽に追

いやっていく。

「だ、だめぇ!!!」

もう・・・!出る!!

追い詰められるような快感に対処できないまま、駿輔は甲高い声を上げて、達してしまう。

自慰行為では決して味わう事の出来ない程の快楽が、駿輔の思考を確実に奪ったのか、荒い息を漏らし

ながら、この絶頂を与えてくれた知己の首筋をペロっと舐める。

それは、男の動きを封じるのには十分すぎたようで、知己は固まったまま、駿輔の顔をまじまじと見る。

ほんのりと朱に染まった頬に、唇は誘うように熟れて、その唇の隙間から覗く舌先は、いやらしく更なる絶

頂を求めるように濡れている。

その姿にゴクリと生唾を飲み、誘いに乗るか否かを悩ませる。

「・・・と・・・も・・・・・・」

甘い声が知己を誘う。

薄く開いた瞳にうっすらと快楽に涙が浮かび、その瞳を妖しげにしている。

再度生唾を飲み込み、そっと熟れた唇に、己の唇を重ねようとした。

瞬間・・・



「・・・気持ち悪い・・・」

明らかに快楽の波が去り、先程出した自分の欲望の証拠が、下着の中で不快感を招いているようだ。

「気持ち悪い!!何とかしろ!!バカ知己!!!」

鳩尾にけりを食らわされ、知己は息を飲み、もんどりうった。

勢いよく起き上がり、「風呂入ってくるは」と一言残し、余韻の何もなく、さっさと部屋を出て行ってしまった。

腹を抱えたまま、ベッドから落とされた知己は、色気の全くない親友に対して、うめき声に似た声をだした。




シャワーを浴びながら、駿輔は先程の感触を思い出して赤くなる。

あのままだと、本気でヤバかった。

きっと流されて、あられもない事とかしだしそうだった。

『・・・気持ちよすぎだって・・・アホ・・・』

彼の呟きはシャワーの音でかき消されたが、先程感じた熱は、確実に駿輔の中でくすぶり始めていた。



昔読んだ雑誌の一文を思い出した。

―――最初に経験したのが異性か同性かで、以後の性癖が決まる





このまま、そっちに走ってしまいそうな、自分の中の衝動をどう抑えるか、これが、今後の俊輔の課題で

ある。
















Une voix sucree
甘い声