In einem Grad zu einem Aufseher
旅のお伴にU




ふと振り返ると、そこには先程まで抱えてた細身の男の姿はなかった。
「………」
呼び掛けようとして、名前を聞いたかどうか考えてしまう。

聞いた気もする。
だが、解らないのだから聞いてないのだろう。

そこで現在自分のいる、建物を凝視する。

ここ、ゼリシアは宗教都市だ。
その主要宗教に関する建造物が人が集まる場所になるはずなのだが、現在の当主が何を考えたか、教会の一部に居を構えた。

―――政は民衆に見えた方がいいからな。

そいつはそう答えた。

単なる詭弁だ、自分の力を誇示するために利用してるに過ぎない。

だが、利便性はいなめない。

今の当主は毎週の礼拝には必ず出席する。
新しく契りを結んだ民を祝福し、生を全うして旅立つ民に涙した。

地位も名誉も関係ない。
そこで行われる事柄には、昼夜を惜しまず参加した。

それが功をそうしたのだろう。
民衆は熱狂的に当主を愛した。

自分の地位を守るためなら、何だってやる奴なんだ、あいつは。

ちっと軽く舌打ちをし、観念したように門番に声をかける。


「ゼルが来た、そう当主殿に伝えてくれ」

そう声を掛けられ門番は、はっとなり、慌てて伝達に向かった。

―――ここにもか…

あの男の抜け目のなさにうんざりした。

あいつは昔からそうだった。
ただの商人から成り上がっただけあって、やる事にそつがなかった。


はぁ、と、深い息を吐き、ふと、先程はぐれたあの男を思い出した。



―――世話がかかるな。

ひとつ呟き、自分が目道りを願ったのも忘れ、きびすを返し、探しに向かう事にした。
「おい!何処へ行く!」
相棒がお伺いに行ってしまい、残った門番がゼルの突然の行動に、慌てふためく。
「改めてくるから安心しろ」
相変わらずの深く響く声だけ残し、振り向かずに人混みに消えて行った。






宗教都市ゼリアナは治安がいい。
無論、多少の悪道はいるものの、治安部隊が介入するほどではなく、殆んどが当事者同士で解決出来る程度だ。

それでも、そんな街にも暗黒街は存在する。
だが、それは他の都市とは異なる機能を持っている。


ここでは、“専門家の貸し出し”が主である。
様々な分野に秀でている者が多く、特に薬品等はゼリアナの暗黒街では手に入らないものはない、とまで言われてる。

つまりは『練金術者』の集まりなのだ。

ここの主神は大地と慈愛を司り、争いの元となる欲とゆうものは諸悪の根源と説いている。

練金術は欲から産まれたもの。

もっと黄金が欲しい、他人を殺してでも手に入れたい…
そんな欲望が練金術を発展させた。

主神の教えに反するものを公に認める訳にはいかない。
これが暗黒街の存在の理由。
品行方正な宗教都市の矛盾。
練金術が発展して、薬学も目覚ましい進化を遂げた。
加え、毒学、細菌学等も著しい発達を遂げた。

欲が他の学問を刺激したのだ。

だが、あくまでもこれらの学問は“神によって与えられた知識”ではないのだ。

この辺りが宗教都市ゼリアナの矛盾なのだ。



その暗黒街の入り口辺りにショーンは佇んでいる。
今まで金に困ったら、ギルドを訪ね、なんとか融通して貰っていた。
横繋がりの組織のいい処はそこである。
今回もお世話になろうと、街中くまなく歩いたが『印』がないのだ。
彼等特有の『印』。
これによって地下に潜ったギルドの位置を知るのだが、それが見当たらない。
結局、探しあぐねてこんな処に迷い込んだ。

「なんか…変な感じ」
彼等独特の嗅覚が、感じ取りる違和感。
何処の街にもある“闇”の部分のはすだが、ここは違う感じがする。

ここを探したらある程度の探索は終了になる。
つまりここがなければ、あのゼルと名乗った男を探すしかないのだ。

どうやって?
あいつは当主様を訪ねていったかもしれない。
しかも、それらしい建物はなかった。

と、なると……

残された道はただひとつ。
なんとかギルドを探すのみなのだ。


「その先はお前には必要がないところだ」

後ろからかけられた言葉には、そう冷たい響きはなかったが、それが自分に与えられた言葉である事に、ショーンは驚きを隠せなかった。

ショーンはひとりで各地を回るうちに、生業が“盗賊”とゆうものになっていた。
元々腕っぷしには自信がなかったし、男の割に起用な手先、物腰の柔かさを相手に与える口先と外見で、そうなってしまった。
自然、その関係の横の繋がりも増えていき、気が付いたらそれが生業になっていた。

そうなってみると、不思議と周辺の言動に敏感になり、自分に関わる物音や、興味のある世間話には過敏に反応する。


だが、今自分に声を掛けた主には全く反応できなかった。
むしろ、脅えるようにとっさに振り替えってしまった。

そこにいたのは、ショーンをこの街に放置した男、ゼルではなく、ショーンとは、そう年も変わらない青年。
小麦色によく焼けた肌が、その青年の黄金の髪によく似合っている。
筋肉質ではないものの、身に付けているものからでも分かる質感が、その青年の生業を示しているようだ。

そう、少なくともショーンと同じ種類の奴ではない。

……傭兵?

にしては軽装だ。

「ここにはお前の求めるものはない」
またひとつ言い放ち、ゆっくりショーンに近寄る。
当のショーンは磁石の同極のように、身構えるように後ずさる。

腰位置を低く保ち、一蹴りで逃げる。

ショーンは腕に覚えがない。
脚の早さを活かして、いつでも逃げ仰せた。
今回もその手でいく。

相手の動き、息遣いに集中して隙を伺う。
一瞬、それだけあれば自信はある。


はぁ、とその青年が瞳を一瞬伏せる。

今だ、と、思う間もなく、ショーンは地を蹴り、その身を空に踊らせた。
まさに踊るように、その長い足をいっぱいに伸ばし、青年のいる路地の壁をけり、更なる跳躍。

だが、その前に青年はショーンの跳躍の先に体をいれる。

『!!』

微妙にずれたタイミングが、かえってショーンの不意を着く。

『飛込む!!』
一瞬の迷いが生じ、とっさにショーンは受け身体勢のまま、その青年の体に飛込む形になった。


青年もろとも、地面に転がりながらも、そんなに衝撃はない。
どうやらその青年が、巧く受け流したようだ。

砂煙が収まり、落ち着きを取り戻したショーンは、申し訳なさそうに、自分を受け止めた青年を見挙げる。
すると、青年もこちらを見ており、視線がかち合った。

―――紅い……

燃えるような紅の瞳。それは綺麗に澄んでおり、吸い込まれるようだった。

その瞳に見惚れていたショーンは、青年の次の行動に対する対処が出来なかった。
とゆうより、それを理解する為の思考回路が止まっていた。

青年の唇が素早く降りてくると、ちゅっと軽い音をたてて、ショーンの唇に触れた。

そう、思考回路は止まってる、本能が今の出来事を理解するのを拒否してる。理性は白旗を振っている。

よって、今の彼はただ己の時を止める事しか出来なかった。

石のように固まっているショーンを覗き込むように見ていた青年は、何を思ったか、何度もついばむようにキスの雨を降らせた。

それが次第に吸い付くように、時には唇で甘噛みするように。
徐々に目的が変わってきたようだ。

固まってる、とは、まさに今のこの状態の事を指すのだろう。

最初は簡単に相手に押さえ込まれた事に対する驚愕、次は降りてくると青年の顔と、その後の行動への困惑。
そして今は自分が何をされてるか、理解不能での思考停止。

理性は今の状況把握と理解を放棄し、本能は違う世界への逃避行をしている。
ショーンの生存本能はどれひとつ機能していない。

まさに“されるがまま”状態だ。


そんな彼の唇を好き勝手に楽しんでした青年は、相手の反応がないのをどう理解したかは不明だが、突如、ショーンの股間に手を伸ばし、やわやわと愛撫を始めた。

さすがにビクッと反応し、螺子がやっと巻かれたかのように、激しい抵抗をみせる。

片手は青年の胸元を必死に殴りつけ、もう片手は髪をひっぱり離そうともがく。唇が塞がれて声が出ないものの、抵抗の呻き声が上がってるのは間違いない。
脚はお構いなしにばたつかせ、何とか体を離そうとしている。
だが、ショーンから青年に覆い被さるような体勢なので、なかなかうまくはいかない。

その中でも青年はショーンの唇を刺激するように甘噛みし、股間をまさぐる手は、強弱をつけながら徐々に形を変えていくそれをいたぶる。

「……っ!」
唇が離れた瞬間、ショーンは叫ぼうとしたが、喉が引っ付いてうまく言葉が出ない。
それより先に、キスの間息を止めていたせいか、本能が止められていた空気を求めて肺へ一気に吸い込んでしまい、それが飽和状態になり、呼吸困難をおこし咽こむ。

それでも、口を大きく開け、必死に呼吸を整えようとした瞬間、また青年の唇が降りてきて、あろう事か生き物のような舌を侵入させてきた。

「んふっ」
ショーンの鼻から漏れたのは甘さを含んだ吐息、そして、背中には痺れにに似たのが這い上がってきた。

うごめく青年の舌が、ショーンの舌に絡み付き、吸い上げ、歯茎を刺激するように縦横無人に這い擦り回る。
時折舌先で裏をなぞられる。
その度に、ショーンの四肢はこわばりひくん、と揺れる。

その舌先のダンスに併せ、股間をまさぐっていた手は、すっかり形を変えたショーンのペニスを服の上から弄んでいた。

だいたい、ショーンは男性どころか、女性とすら肌を合わせた事がない。
それどころか、己で慰めた事すら無いに等しいのだ。

幼い頃からひとりで生きる術を身に付けてきたが、その中には“性交渉”は含まれてまない。

自分の外見が他人に与える心象は熟知しているが、それを結び付けないように振る舞っていた。
それに溺れるのが怖かったから。

青年の与える快楽の波に翻弄され、次第に荒い呻き声に甘さを含んできた。
「…ふっ……あ…ぁん……や、やだぁ…」
双眼から涙を流し、いやいやと首を振る。

押し寄せる快楽に溺れそうな自分に脅え、ただ、力なく首を振るしか出来ない。

と、ショーンが空に浮かんだ。

違う、誰かに抱え挙げられたのだ。

「裏通りとはいえ、天下の往来で何やってる」
腰に響く低音に、ショーンの中心はピクンと振るえた。
そっと顔を上げると、そこにはゼルが呆れ顔でいた。

「あ…」
自分をこの街のど真ん中に放置した男であるにも関わらず、ショーンは嬉しさでほろほろと涙を流した。

―――助かった……

その思いだけだった。

散々いいようにもてあそばれたたショーンは、悲しい事に腰が抜けていた。
初めて味わった“快楽”とゆう名の獣に未だに翻弄されているのだ。
今の彼に理解出来るのは、その獣から救い出されたとゆう事だけで、目前で自分を挟んで睨み合ってる男共の事なんざ、これっぽっちも頭に入ってこない。

そう、舞台のスポットライトは今、このふたりに移っているのだ。


長い沈黙ののち、先制攻撃を食らわしたのは青年の方だ。
「よ、ゼル。なんだ?親父のラブコールに答えてのこのこ来たのか?」

だが、この青年のジャブも軽くかわし、ゼルは余裕を崩さずにカウンターを繰り出す。

「お前こそ余りにもてなくて男に主旨変えしたか?」
それとも…と一呼吸置き、
「まさかそのガキに誘惑されたのか?」

鼻から抜ける独特の短い笑いは、青年だけでなくショーンも含めて嘲っている響きがある。

これに素早く反応したのは、ショーンの方だった。

「あぁ?!ンで男を誘惑しなきゃなんねぇんだよ!!」

そもそもゼルとの出会いを考えたらそんな事言える訳がないのだが…

だが、それはそれ。
先に進むためには簡単に忘れてしまうのだ。


思いもしない外野からの応戦に、青年は軽く怯んだが、それでもゼルを見る目にはほんのりと憎しみを纏う。

何が彼を掻き立てるのだろう?

「今更何しに来た!!」
憎しみで血を吐くような…否、そんな重いものではないが、“お前キライ!”くらいの感情は籠ってる。

なんだ?この軽さは…?
ヤキモチに似た感情をぶつけられて、ゼルは思いの外優しく笑い、ショーンを抱えたままそっと青年に近寄る。

「……淋しかったか?」
ぞっとするような低い声に、ショーンは背筋が寒くなるのを覚えた。

「バカ!!当たり前だ!!」
ショーンは、いつの間にか涙をいっぱいに溜めていた青年に引いてしまった。



間があいてすいません;
さすがにブログに載せるには勇気がいる無いようになってしまったので・・・
新キャラです。ゼルになにやら関係あるみたいですよ〜関係は次回判明しますので、もし気が向きましたら、またお付き合い下さい。